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天ヶ岳

金毘羅山
天ヶ岳
鞍馬山

日程:2014/06/17-18(一泊二日)
ルート:ロッククライミングゲレンデ - 三壺大神 - 翠黛山 - 寂光院道 - 天ヶ岳 - 三又岳 - 薬王坂 - 鞍馬温泉 - 鞍馬寺

コースタイム:03h14min
翠黛山:577m
天ヶ岳:788m

距離:11.906km
累積標高:812m
天候:曇りのち雨
気温:?℃
湿度:?%
目的:テン泊
単独行

朝食を作りながらラジオを聴いていた。
DJは、知りたくない人はしばらく耳を塞いでおいてくださいね、と前置きし、ワールドカップの結果を告げた。それからサッカーに纏わる歌を数曲流し、天気はくだり坂ですので傘をお忘れなく、で番組を終えた。

朝食はソーキそばだった。
インスタントラーメンを詰めてきたつもりだったのに、沖縄で買った沖縄そばに軟骨ソーキのレトルト、そしてコーレーグースが入っていた。
慌てて色々と忘れてきたのに、なんとも完璧な品揃えだ。

軟骨ソーキのレトルトを温めた湯でソーキそばを茹でる。
「生麺ですのでお早めにお召し上がり下さい」の文字が目に入り、カビてやしないか、腐ってやしないかと確認するが異常はなさそうだった。賞味期限は二ヶ月も前に過ぎているけど、ナンクルナイサーだ。

今ならまだ、ソーキ入りパスタに変えることも出来たのだが、不思議とそんな気持ちは湧いてこなかった。それは無意識のうちに完璧な仕事を済ませていたボクへの敬意みたいなものだった。

二分半から三分と書かれた湯で時間を、四分半まで延長して茹でたのは、念入りに加熱殺菌するためではない。乾燥が進み、中々茹で上らなかったからだ。
ドロドロの茹で汁に粉末のスープを溶かす。少し冷めた軟骨ソーキを乗せ、タップリとコーレーグースを振った。もちろん、アルコール消毒の意味合いを込めてだ。

朝食を終え、撤収作業を済ませても、空は薄曇りに明るくて、天気予報は珍しく良い方に外れたのかもと思った。それならそれで雲取山まで足を伸ばしてもいい。どっちみち、そっちへ行くにしたって、天ヶ岳山頂近くまでは行かなければならないのだから、今はまだ直ぐに決める必要なんてこれっぽっちもなかった。

歩き始めてすぐに、跡形もなく崩壊した三壺大神の社に出逢った。いかにも山頂風な様相を呈しているのだが、三角点のある本当の山頂は、ここからさらに西へ5分行った処だと書いてある。地図で確認すると、往復二十分の行止まりだった。あの先に見える頂きがそれだろうと急坂を五分ばかり下りた後、どうせ戻るのだからデポしておけば良かったなって思う。なんなら今ここで置いていっても良いのだけれど、とも思った。それでも置いていかなかったのは、今更、って思いもあったし、地図に描かれていないルートも数多くあるのだから、って考えたりもしたからだ。

坂を下り終え、新たな標識を見つけた。それはこれまで幾度となく見掛けたものとほとんど変わりなかったけど、書いてある内容はまったく違っていた。今までのそれは、ボクが確かに正しい路を歩んできていることを示していたし、確認させてくれていた。しかし、今、目の前にあるそれは違っていた。ボクは、当然この先に金毘羅山山頂が待っているってことを確認させてくれるとばかり思っていた。だがそれはボクの思い込みに過ぎず、その先にあるのは「寂光院」であることを告げていた。
ボクは地図を開き確認する。「寂光院」のその位置を。それは翠黛山のさらに向うに存在していた。そしてその翠黛山は、後々目指す山であった。
近視眼的な意味ではボクは明かに路を踏み外していたのだが、大局的な目で見れば、ボクはなんら間違えてなどいなかったのだ。ただ、金毘羅山の山頂を踏み逃したって事にしか過ぎなかったのだ。

翠黛山を越えて幾多の路が交差する鞍部に差し掛かった。雑多に指し示される標識に「天ヶ岳」の文字もあった。それは水平道を指し示しているようでもあり、高度を上げて行く尾根道を暗示しているようでもあった。
本能的に、山に登るのだから尾根道だろうという気がした。経験的に、安易な思い込みで進むと路を誤ることを知っていた。そして今しがた、その経験を重ねたばかりだった。だから地図を取出し、よく確認した。ボクの目指す先は、明かに水平道だった。

暑い暑いという程には気温は高くないのだが、湿度の高さと風の無さで汗が止まらない。アクティブスキンとキャプリーン2のおかげで、服が濡れてる感はないのだが、キャップのツバを伝って止めどなく流れ落ちる汗が、ボクの汗の量を表していた。
ウェットティッシュで身体を拭いているとはいえ、服まで洗濯しているわけではない。キャプリーン2がいくら汗を素早く乾かしてくれたとしても、そこに残る塩まで飛ばすことは出来ない。その残った塩が再びボクのかいた汗で溶けて身体に纏わりつく。それにタップリと湿った空気が重なる。
不快感でいっぱいだった。早く汗を流したかった。一刻も早く熱い温泉に浸かりたかった。

重く湿気った風が吹き出した。それは天候の悪化を暗示していた。間も無く前線が通過する予兆に思われた。だからボクは迷わず天ヶ岳をめざした。雨が降り出す前に下ってしまいたかった。

ポツリポツリと雨が落ち出すなか、温泉に辿り着く。グッショリと汗の染み込んだ服を脱ぎ捨て、毛穴の奥底までヒリヒリと焼きつけるほどに熱い湯に肩まで浸かる。思わず極楽極楽と声が漏れた。外は、浴室内まで響いてくるほどの土砂降りの雨。ギリでセーフだった。
そんな姿を思い描き、ひたすら坂を下り続けた。

薬王坂を下るなか、ポツリと冷たいものが手を打った気がした。脚を止め、掌を上に向ける。何も落ちてこない。気のせいかと思いさらに進むと、足元の石にポツリポツリと薄暗い斑が刻まれだした。誂えたかのようなタイミングだなと、ひとりごちる。ボクの判断は正しかったコトを今改めて知った。

遭遇:鹿x3

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