スキップしてメイン コンテンツに移動

紀ノ川水系下多古川 本谷遡行 一日目 2020年6月6日

六月も初めだというのに全国各地で真夏日をたたき出す猛暑が続くなか、これはもう沢だな、と沢装備を整え出社する。
沢足袋のフェルトを張替えていなかったなと、石井スポーツで草鞋を買って大峰を目指した。

「関西起点 沢登りルート100」が見当たらないのでネットで適当に遡行図を探すが途中までのものしか見つからない。
初心者向けの容易な沢で登山道も沢筋に付いているみたいなことが書かれているから、オンサイトで大丈夫だろうとろくに情報も集めずに旅だった。
これがまたえらい苦労する羽目になろうなどとは何も知らずに。

沢沿いに今なお残る集落を抜け川をまたぐと一軒の建物が目についた。
確か川を渡ってすぐぐらいのところが取付きだったよな、うろ覚えの遡行図を思いだし、簡易浄水場の横から続く踏み跡をなぞって入渓した。

朽ち果てた取水口を越えるとすぐ、滝に出会った。
沢足袋に履き替え、草鞋を結ぶ。妙に鼻緒が短くて履きにくい。

念のためi-padで遡行図を確認する。6mの斜瀑(F1)とある。確かに6mくらいの高さだが、斜瀑というかふつうに滝だ。
直登できなくはないが、シャワークライムを強いられる。
思ったよりも気温が低いし日差しもない。入渓したばかりで体も温まっていないのに滝に打たれるのはいややなと、右岸の草付きを捲く。これが見た目以上に悪い。岩の上にうっすらと土がのり、頼りなげに草が生えている程度だった。
手掛かりになる樹根はおろか、幼木ですらほとんど手の届く範囲にはない。
それでも登れそうなポイントを探し、左へ左へとトラバースしていく。しかし、楽に登れそうなところは見つからず、心が折れた。

しかたがない。直登しようと緩んだ草鞋を結びなおした。
途端に鼻緒が切れた。ブチッとした手触りと共に、ボクの張りつめた気持ちも切れた瞬間だった。

取水口より手前まで戻り、今度は左岸を高捲く。獣道やもしれぬかすかな踏み跡をみつけ、たどる。
F1を越えて再び沢へ下りたいのだが、どれだけ探しても下りられそうなルートがない。捨て縄でも張れば別だが、戻ってこないので回収もできない。
下りられないのなら上を目指すしかない。どこかに登山道がついているかもしれないし、いっそのこと舗装林道まで出てしまってもいい。なんなら林道の終点まで歩いてしまおうかと思えるほど身も心も疲れていた。

眼下に美しい渓流を眺めながらもそこに降りたつ手段を見出せずにひたすら上へと目指し、上にあるであろう舗装林道へと近づく。結局のところ、とどのつまり、そこに出るしか道はなかったのだ。

そこはちょうどヘアピンの箇所。コーナーには地蔵菩薩が祀られていた。これもなにかの縁かとこの先の安全を祈願し手をあわせる。

そして振り返ればそのすぐ先に谷底へと向かう階段があった。一度は折れた心を試すかのように、立ち向かうならば降りてみろと言いたげに、姿を現したのだ。

しばらくは静かな遡行が続いた。初心者向けと云うにふさわしい穏やかな渓相。遡行図を確認するが、現在地はようとして知れない。
遡行図にそれらしい特徴も確認できずに進むが、あまり気にしない。

「沢ではいつもオンタイム」
なんて嘯いているのはまったくの嘘偽りってわけでもなく、やっぱり状況やルートが刻一刻と変わる沢ってヤツは頭デッカチではいけないっても思っているからだ。
大きな災害があれば姿を大きく変えることなんてよくあるってことだ。

右岸から注ぐ美しいスラブ滝をみる。遡行図には確かに右岸からの滝が描かれていた。
だが、周辺の環境が違いすぎた。いくら姿を変えるといえどもその変化は想像を超えていた。まるっきり別モノだった。

そもそも他の沢へ入ったのではないかと心配した。もしくは、しれないうちに支流に迷い込んだのではないかと危惧した。
しかし地形図にはそれらしい沢筋は認められなかった。何より遡行図に描かれている吊橋に出会っていないのが不可思議だった。頭上にかかる吊橋を見逃すことなどあるだろうか。
いや、ない。そこまで愚かではない。そう信じたい。そこまで状況判断できないのであれば、たやすく命を落としているはずだ。落としていなくとも、いつ落とすともやしれない。そこまで愚かだとは思いたくない。

印象的なチョックストーンも、残置のロープがなければ越えられなかった滝も描かれていない。どう考えても、災害やなんやかんやあって渓相が変わったとしても、ここが遡行図に描かれた沢とは思えない。
つまり、まあ、残る結論としては、ボクが思っていた入渓地点よりも前から入って、予定では要らない苦労を2時間以上していたってことだった。

進入禁止のように張り巡らされたロープをたどり、再び林道へと這い上がった。
そこには遡行図に描かれているパーキングロットのようなスペースがあり、奥へと続く梯子が据え付けられていた。

そういえばこんな梯子から入渓するって、確かにネットで見ていた。前日にチラッと、仕事の合間にコソッと、見ていた。

もう入渓する気力はなかった。
沢沿いに続く登山道をただただ歩み、心地やすそうなキャンプ適地をみつけ、ヤマビルに吸われた血がとまらんなあと、酒を呑みながら焚火にあたり、ハンモックに寝転んだ。


日程:2020/06/06-07(一泊二日)
ルート:近鉄大和上市駅 - R169ゆうゆうバス下多古バス停 - 下多古簡易水道浄水場0956 - 入渓1000 - 一般的な入渓地点1222 - 吊橋1241 - 滝見台1256 - 中の滝 - キャンプ適地1402
コースタイム: 04h.02min (休憩時間を含む)
今宿跡:1,448m
地形図:洞川
距離:?km
累積標高:?m
天候:曇り
気温:?℃
湿度:?%
目的:下多古川本谷遡行
単独行
RICOH GR DIGITAL IV
おけ常(下市) ★★★★ 上巻寿司¥850、柿の葉寿司¥110×2
千石楼(大石) ★★★
チンタ(水道筋) ★★★★
R169ゆうゆうバス 下市駅 - 下多古¥1,210
奈良交通バス 洞川温泉 - 西迎院前¥1,270

コメント

このブログの人気の投稿

トゥエンティクロス終了のお知らせ

ルート:上野道取付 - 展望広場 - 掬星台 - 摩耶ビューテラス702 - 桜谷道 - 徳川道 - トゥエンティクロス - 新神戸 コースタイム:4h 55min(休憩時間を含む) 掬星台:692m 距離:?km 累積標高:?m 天候:雨一時豪雨 気温:? 湿度:? 目的:水遊び 単独行 「20+エライ事になっとうで」 シンちゃんからそう聞いたからには、そこに行かないわけにはいかなくなった。 何でも二十渉は、ここ連日のゲリラ豪雨により底なし沼と化しているそうだ。そして、そこで、クツを脱ぎ、膝まで砂に浸かり、腰まで沈み込んだところでようやく諦めて引返したという。 ナントカっていう動画(酔っ払っていたから何回も聞いたけど忘れた)で、底なし沼からの脱出方法を観ていたから大丈夫やったけど、知らんかったらホンマにヤバかった。先ず片脚を抜いて腹這に横たわり、腕を広げて沈み込まないようにしてもう片方の脚を引き抜くねん、なんて嬉々として語る。 それならボクはその先まで行ったろう、とその先までますます行かないわけにはいかなくなったのだった。 甲山へ走るというみんなとは別に二十渉を目指した。 始めは長峰から桜谷を抜け徳川から二十渉へ向おうと思っていたのだが、昨夜の2時過ぎまでの酒によるダルさと朝から降りそぼる雨に嫌気がさし、12時過ぎのスタートの上野道上りとなった。 「上りの報告と下山の報告は、ちゃんとしてや」の約束を守り、FBに入山届を上げた。 展望広場では早々に朝食兼昼飯となるガーリックトマトパスタを食す。 降り濡つ雨を避け、掬星台の702でビールを傾けながらFBに応える。そんな束の間の休息のうちに、雨脚は一際激しくなっていた。カウンターからソファーへ移り、ホットドッグにドリンクバーを追加した。そしてドッシリと腰を据え、宇宙兄弟を紐解いた。 もう帰ったろかなってのが正直本心だった。しかし、雨も小降りになった事だし、宇宙兄弟もアニメに忠実(アニメが漫画に忠実の間違い)でオモロかった事やし、気を取り直して、濡れそぼつ気にもなったわけだ。 雨の桜谷は、晴れの日よりもむしろ好ましかった。木に降り注ぐ雨が枝を伝い集まり、洞よりほとばしる様を眺めたり、路行くひとの歩みにより削り磨かれた窪みを、あたかもそこが滑床であるかのよう...

山カフェ、メニュー追加しました 2019年10月02日

Leica M8 Voigtländer NOKTON classic 40mm F1.4 MC ビアレッティのブリッカを購入しました。 最初、極細挽きに挽いたマンデリンで淹れたのですが、いまいちでした。 粉っぽいし。 エスプレッソ用の豆を細挽きで淹れるといい感じ。 Leica M8 Voigtländer NOKTON classic 40mm F1.4 MC Leica M8 Voigtländer NOKTON classic 40mm F1.4 MC 日程:2019/10/02(日帰り) ルート:十善寺1309 - 一王山山頂1315 - 十善寺1401 コースタイム:0h 52min(休憩時間を含む) 地形図:神戸首部 距離:?km 累積標高:?m 天候:曇り 気温:?℃ 湿度:? 目的:山カフェ 単独行 高田屋旭店(水道筋)★★★★ チンタ(水道筋)★★★★