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十津川水系川迫川モジキ谷遡行(二日目)

十津川水系川迫川モジキ谷遡行(初日前編)
十津川水系川迫川モジキ谷遡行(初日後編)
十津川水系川迫川モジキ谷遡行(二日目)
稲村ヶ岳
山上ヶ岳


ルート:モジキ谷取水口 - モジキ谷 - 稲村ヶ岳尾根
コースタイム:?(休憩時間を含む)

日程20120714-20120715
距離:?km
累積標高:?m
天候:晴れのち曇り
気温:?
湿度:?
目的:モジキ谷遡行
単独行

フィルターで減光されたような光の中で目覚めた。
それは沢特有のいつも通りの朝だった。

昨晩に引続き、インスタントラーメンで食事を済ませる。
沢での食事は、軽量、安価、暖を取れる、水だけは潤沢にあるってことで、行動食以外はすべてインスタントラーメンで済ませることが多い。
沢なら現地調達だろ、って源流釣り派に憧れて、バックパックの片隅に竿を突っ込んで登ることも多々あるにはあるのだが、一度たりともその出番を迎えたことは、ない。遡行中に竿を出そうという気にもなれなければ、日が高いうちに腰を据えてしまうことも無いのだから、致し方ないとも云える。

ラーメンを啜りながら沢を覗き込む。たまに魚影が舞うが、食べられるほど大きくはない。
もっとも、立派なアマゴでも見かけたところで出発を遅らせようなんて気にすらならないだろう。沢は登る場所であって、釣りをする場所ではない。ただ、もう少しばかり歳を取ったなら、登りながら釣りを愉しむそのスタイルに落着くであろうことも確かだった。少年時代には山を登るよりも、むしろ釣りに勤しむ方が好きだったのだから。

大峰の沢は、六甲のそれよりも遥かに澄んでいて、遥かに静かだった。それは水の清らかさだとかではなく、そよぐ空気感みたいなもんであったり、人混みのざわめきだとかではなくて、木の葉擦れの囁きみたいなもんだったりした。薄らと岩肌を伝い流れ落ちる雫さえも、そのひとつひとつが宝石か何かのように輝いて見えた。

滑らかに磨かれた滑床が誂えたように広がっていた。沢靴越しに感じる水の流れを味わいたくて、その中に次々と踏み込んでいった。

ゴルジュをへつり、岩の窪みより噴き出すような滝を緩く傾斜した左岸より巻いた。
落口より眺めると、滝の裏側に広い空間が在るのが分る。そこに潜り込んでみたくて、右岸より下った。防水ではないカメラを庇いながら流れの裏へ廻る。上から見るほど広くは感じられなかったが、水流のカーテン越しの景色を味わえるだけの空間がそこにはあった。

再び左岸よりよじ登り、その先に姿を現した滝を前にルートを見失う。
高さこそ10mも無いくらいだが、直登するにはちょっと腰が引ける景観だった。

巻道を探す。右岸は切立った岩肌を晒す崖が続くだけで、何処にも巻けそうなルートを見付け出すコトなど出来そうになかった。
左岸は左岸で崖では無いが崖と云ってもいい程には急峻な斜面であった。しかもその外れからは落差20mを遥かに超える滝が流れ落ちていた。
つまり、左岸を巻くにしてもその遥か20mを超える滝よりも上まで登らなければならないって事だった。

それでもココを越えていかなければ帰ることすら出来ないワケで、比較的登り易そうな箇所を選び、そこに取付いた。

草付きを沢履で登るのは辛い。川底にあってはよく効くフェルトのソールも、土が相手となると全くといっていい程踏ん張りが効かない。ずるずると滑る足袋を恨めしく眺め、立木を頼りに少しでも登り易そうなルートを探した。

ザッという音に視線を送る。
その黒さに熊かと思う。その速さに猪かと思い直した。
それはまさに一瞬の出来事だった。ボクはすぐさまそれを目で追い、振り返った。そこにあったのは、ボクの手が届きそうな程近くを駆け抜けていったカモシカの後姿だった。

あんなもんにブチ当られたらタダでは済まないよなって、30数年振りとなるカモシカとの邂逅と、懐かしさと共に訪れるあり得ないルート選択の悔悟を胸に、ヤッパリこの路は違うだろうって、カモシカが駆け抜けて行った踏み跡を追って下りた。

それなら、この先のルートは何処だろう。
さっき覗き込んだ滝を再び下りたりもした。しかしそこにはもちろんその先へと続く路などなく、また元通りに左岸から上がって、また同じ場所へと戻るのだった。

そこで初めて、それ以外の手立てを無くして、その登れそうに無いなって遠くから眺めた滝へと近寄った。
そこには風化し色褪せた残置ロープが架けられ、所々にシュリンゲが残されていた。
ここで初めて、この滝の脇を直登するのが正しいルートだと知った。

ココで落ちたら多分死ぬなって位に緊張感を持って慎重に進んだ。それはもちろん難易度が高いってことからなんかではなくて、入渓する人が少ないから骨折しただけでも、そこから動けなくなり死ぬかもしれないってコトだけの事だった。

突如、沢が消えた。そこにはゴーロへと姿を変えた河原が広がっているだけだった。しかし沢が途絶えたわけではない。伏流となり、一時的に姿を隠しているだけだ。先へ進めば再び清い流れが姿を現し、滝の雷声も響き渡る。水を全て使い果たしていたボクだったが、それを焦るまでもなかった。それくらいの情報は、事前に調べていた。

どちらが本流かわからない分岐。しかし迷うまでもない。お節介な矢印が、どちらがモジキ谷かを教えてくれている。地形図すら出さずに素直にそれに従う。

そして訪れた核心部。高度感溢れる滝が、轟く海鳴りにも似た響きの元に姿を現した。

これを直登なんて考えもしなかった。迷わず横のルンゼから巻くことを選んだ。しかし、いくら登ろうとも、本流に戻れそうなルートは見つからない。そのまま、何処までも、その谷をツメテいった。
本流に戻れないってことは、ひとつだけ大きな問題を秘めていた。水を汲めないってことだ。
もはや滝まで戻るのはイヤって位には登って来ていたし、ここもまた、これまでの道程と同様に、上るのよりも下る方が遥かに困難なルートだった。

所々、岩肌を舐める位には水が湧いていた。だから、何処かに滴り落ちる位には湧いていないか、それを期待して進んだ。
荷物をビレイしなければ不安なくらい足元の危ういところに、それを見つけた。ポツリポツリとゆっくり滴るそれを、プラティパスに掬い集めた。それは、ファンケルの中の人くらいに辛抱を要求される仕事だった。
1ℓの容器に半分溜めるだけでもどれだけの時間と忍耐を要しただろう。これだけあれば次の水場を探すくらいには保つだろうと、痺れを切らし、シビれた膝を伸ばし立上る。
尾根はもうすぐなはずだった。

遭遇:ニホンカモシカ

呑み:宿坊 - チンタ - モンク

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