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巻機山米子沢遡行 - 後篇 -

巻機山米子沢遡行 - 前篇 - 「ねえ、覚えてる? 私が、スバルにお願いしたこと」 「私はスバルに、米子沢からの巻機山登山はしないでってお願いしたの」 「遭難したら、これ以上、お金を酷使したらお財布がどうなっちゃうかわからないから、米子沢から登らないでってお願いしたの」 出だしの自己責任看板の文言を思い返していた。 そのお願いを読んでいたはずだった。その警告を受け容れていたはずだった。 それでもそのお願い事を蔑ろにしたのは、無事下山すればいいと思っていたからだ。 それだけの経験を積んでいるはずだった。それだけの知識を得てきたはずだった。 それなのに沢底を這いつくばり、掻きわけた笹に足を滑らせ、無数の傷を創り上げて無様に横たわる今のボクはなんなんだ。 「言うことを聞かなかったのは、悪かったと、思ってる。ホントだ。本当に反省してる。けど! でも、違う。違うんだよ。俺は、天国へ続く滑床を歩きたくて、藪こぎなしで詰めれるって情報を信じて……」 鞍部に横たわる滑床。そこから広がる草原。その先には涼しげな稜線が横たわっている。 ネットで見た詰めの風景。 でもボクの行く手には、笹藪に覆われた沢。いつまで続くか分からない深い藪。 その先は見通すことができない。 ひとつ大きな分岐があった。 広く開けた滑らかな右俣。クラックを激しく水が流れ落ちる左俣。 楽しげに見えた左俣を登った。左俣の方が簡単だったからってのもある。 やがて沢は狭まり、右岸を捲いた。笹が折り倒されているのを見て、ここがルートだろうと思ったし、増水で押し倒されたのかもと思い直したりもした。 再び広い滑床に出る。 鞍部に横たわる岩肌。やや低くなった右岸側を流れる沢筋。その先にはどこまでも続く滑床が広がっていた。 あーもう、K・M・F!(コメゴサワたん・マジ・フェアリー) 思わずそう叫び出したい気分だった。 スバルって誰だ? それなのに今ボクは、水の無い沢底で藻掻いていた。 沢を詰めると辺り一面笹の茂みに覆われていた。 それで少しでもマシな沢筋を辿った。沢の上には獣道程の空間が空いている。そこを獣の様に這いつくばって進む。 わずか50cmの滝が越えられない。滝口から伸びる枝が行く手を遮っていたからだ。 隣の支沢に移ろうと

巻機山米子沢遡行 - 前篇 -

米子沢に関する警告 米子沢は事故が多発しております。危険です。 コースではありません。米子沢からの巻機山登山は ご遠慮願います。 なお、山岳遭難の当事者には多額の救助費用を ご負担いただく場合がございます。 南魚沼地域山岳遭難防止対策協議会 南魚沼市 初っ端に〝自己責任看板〟のお出迎えを受けた。 初っ端にとは云ったが、実はこの少し前に他の沢を辿っていた。 それは駐車場手前の橋から、これが米子沢だろうと勝手に思い込んで入っていた沢だった。 沢足袋に履替え、堰堤を越える。草付に足を取られ、笹の葉で手足を切った。 三段から成る堰堤を越えかけて、その藪の濃さに辟易した。 沢に沿って走る林道を伝い再度沢へ下りる路を捜し歩いた。 それから出逢ったのが冒頭の自己責任看板だ。 ボクの遡行していた沢は米子沢ではなかった。林道を挟んで反対側の名も知らぬ沢を登っていたのだ。 いつも沢ではオンサイト、なんて嘯いているボクだから、今回もロクに情報を集めていなかった。 遡行図はおろか取付きさえも調べていなかったのだ。 さて、ここから米子沢のことを語ろう。 自己責任看板の横を抜け、河川敷へと下る小路を行く。 〝多額の救助費用をご負担〟などとわざわざ赤文字にして声高に叫ぶ割には行く手を遮るロープすら張られていない。 待ち構えていたのは伏流の沢。 なんとなく弥山川を彷彿とさせるが、その先に広がる峰峰の連なりがまるで違っていた。 暗く陰鬱で狭く深い弥山川と、光射し込む開放的な米子沢。 その果てに、天国の滑床と云われる場所が在るのを予感させるには十分すぎるスタートだった。 やがて水の流れが現れる。 30℃を超える気温から逃れたくて積極的に沢に入って行った。 しかし、予想以上に水は温く、そこに清涼は感じない。 光り注ぐ天国の滑床は日の出と共に温められ、そこを流れ下りる沢水は当然のごとくその温もりを貰い受けていた。 その温もりは岩肌に藻を生やし、思わぬ滑りをもたらした。 その滑りは常に緊張を強いてきた。 45°を超える岩肌が延々と続く。ひとたび足を滑らせたら百mは滑落するだろう。 それほどに広く開けた滑床だった。 実じゃないよ、中には玉蜂の幼虫がいるよ OM-D E-M1 M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm