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大峯山奥駈道順峯(二日目前編)

大峯山奥駈道順峯(一日目)
大峯山奥駈道順峯(二日目前編)
大峯山奥駈道順峯(二日目後編)

日程:2012/05/03-05(二泊三日)
ルート:葛川辻 - 笠捨山 - 行仙宿山小屋 - 行仙岳 - 倶利迦羅岳 - 転法輪岳 - 平治ノ宿 - 持経ノ宿 - 阿須迦利岳 - 証誠無漏岳 - 涅槃岳 - 般若岳 - 地蔵岳 - 天狗山 - 太古の辻

コースタイム:8h 34min(葛川辻 - 前鬼、休憩時間を含む)

笠捨山(1,352.7m)
行仙岳(1,227.3m)
倶利迦羅岳(1,252m)
転法輪岳(1,281.5m)
阿須迦利岳(1,251m)
証誠無漏岳(1,301m)
涅槃岳(1,376.2m)
般若岳(1,328m)
地蔵岳(1,464m)
天狗山(1,537.1m)
距離:23.191km(葛川辻 - 前鬼)
累積標高:3,331m(葛川辻 - 前鬼)
天候:曇り時々雨霙
気温:?
湿度:?
目的:大峯山奥駈道縦走
単独行

消費カロリー:?kcal
HR:ave?
HR:max?

薄明も未だ始まらぬ早朝に、なにやら蠢く気配を感じ目覚めた。それは逆峯の彼が荷造りを始めたザワメキだった。

ボクも5日には吉野に辿りついていないとBBQに参加できないので、あまりのんびりしている余裕はないのだが、夜明け前に動き出す元気はない。再び目を覚ますと、ソロソロ動き出さなければと思わせるには十分なほどに明るくなっていた。時間にすれば30分も経っていないのだが、稜線上の夜明けは日没の早さ同様に劇的に訪れた。

寝床よりにじり出て朝食用の湯を沸かす。
「おはようございます」と挨拶を交わす。
「お友達には会えましたか」
「いいえ、寝てる間に通ったんでしょう」
「残念でしたね」

テントをたたみながら交わす他愛もない会話。
「ええ、逢えましたよ、夢の中で」
酒の席でならそんな返事を返すところだが、朝の厳粛な雰囲気の中ではそんな軽口をたたく気にはなれなかった。

「また会いましょう」と握手を交わし、朝もやの中に消えゆく江坂の彼を見送る。
少し伸びかけたラーメンを啜りこみながら、そういえば名前を聞くのを忘れていたな、なんて考えたりもした。

晩飯のパスタにラーメン、朝飯のラーメン、飲酒による喉の渇きなどにより心もとなくなった水分補給に水場へと下った。

一昨日の大雨は、未だその路を歩き難いものとしたままで、いくらトラロープが張り渡してあるとしても暗闇を伝い下りていった江坂の彼の苦労は、容易に想像することが出来た。
「きれいな水場でしたよ」の言葉通りに、激しく水を散らすその滝の流れは雑味もなく旨かった。

飯を喰ったり、水を汲んだり、雉を撃ったり、荷物を纏めたりしているうちに陽はぐんぐん上っていき、出発したのは6時を大きく回っていた。
今日の宿泊予定地としては弥山を越したくらいで、なんて比較的距離を稼ぐつもりだったからあまりだらけている暇はなかったのだが、なんやかんやと時間がかかってしまっていた。

昨夜の酒もすかっと抜け、ゆっくりと朝食も取り、快調に便を排泄したのだから、それこそ意気揚々と距離を稼ぐデダシなはずなのだが、足取りが重い。西行法師があまりの厳しさに笠を捨てたと謂れの残るほどの急坂に、ボクはシャッポを脱いで引返したくなる。一時間も有れば越えられるだろうと思っていたその登りに、結局、一時間半も掛かってしまっていた。

そうして辿りついた山頂には小さな祠がひとつ祀られていた。ナゼ修験道の山に道祖神?と首を傾げながら横に回る。そこには切々と人々の都合が記されており、ボクも大変だったけど、神様もなんだか大変なんだなとシミジミ思う。

笠捨山、行仙岳としんどいながらも順調に進む。そこに疲労もなければ故障もない。体力的にはなんら問題なかった。しかし好調なボクをヨソに、天候はみるみる悪化していく。
笠捨山からパラパラと降り始めていた雨は、いつしか横殴りに吹付ける霙へと変わっていた。尾根を抜ける風のすさまじさに倒れ枯れ果てた大木の陰で、雨風を防ぎながらありったけの上着を着込む。といっても、FTのメッシュスキンにUAのコールドギアの上からORのビガ―ジャケットを羽織っただけだ。下に至っては、アディダスの半パンしか履いていない。雨具としては傘もあるのだが、それを差そうものなら1秒と保たずにオシャカになるのは目に見えている。それから行動食になりそうなものをバックパックから取り出した。グローブバッグに用意していたものは、ショッツ一つにBCAAが二つ、アメちゃん二個となっていたからだ。想定外の悪天候に、予想以上の寒さを感じ、予定していた行動食では全く足りなくなっていた。

もはや前鬼へ下りることしか考えられなかった。本日の行程を深仙ノ宿で止めたとしても、あと二日掛ければ吉野まで余裕で行ける。が、それではBBQに参加できない。アルファ米やラーメンは十分にあるが、行動食がない。なにより、アルコールが残すところ日本酒100mlだけでは二日ももつはずがない。やっぱり下山以外の選択肢はなかった。

ショッツ、アメちゃんと、行動食らしい行動食は早くも食べ尽くしていた。それでも体温を維持するためには、なんらかのカロリーを摂らなければならない。だから木の根の陰にしゃがんでレトルトカレーを啜り、少しでも風を防げる岩陰でパスタソースを舐めた。

天狗の稽古場でホワイトアウトして路を外れ、遥か下方より駆け上がる雲の姿を見送り、束の間の青空の美しさに見惚れた。
動き続けなければ凍死してしまいそうな寒さの中、命からがらに太古の辻へ辿り着いく。

岩を回り込みシャクナゲの茂みを抜けると、あれだけ吹き荒れていた嵐が止んだ。正しくは、ボクがその渦中から抜け出しただけだった。頭上には千切れては吹き飛んでゆく雲がたなびき、ボクを避けて抜けていく風は、辺りに山鳴りを轟かせていた。

遭遇:ナシ

呑み:下北山スポーツ公園

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