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ヤマビル

根の平峠
ヤマビル

ルート:根の平峠 - 伊勢谷 - 朝明渓谷 - 東海自然歩道 - 風越峠 - 希望荘 - 近鉄湯の山温泉駅
日程:20130706-07

御在所岳1,212m
国見岳1,175.2m
コースタイム:3h 02min(休憩時間を含む)
距離:10.374km
累積標高:329m
天候:晴れ
気温:?
湿度:?
目的:藤原岳まで縦走


目覚めるとそこには、昨夜の雷雨が嘘のような青空が拡がっていた。


それでも昨夜の重く陰鬱な気分は抜けきれず、ずっしりと雨を吸ったツエルトと、しっとりと湿ったシュラフに包まれ、空高く日が上るまでゴロゴロと寝転がって過ごしていた。
ごろごろと地図を眺めながら、せっかく晴れたのだからせめて釈迦ヶ岳までは行こうかともふと思ったのだが、それさえも億劫な程に昨夜の雨に打ちのめされている自分に気付いた。

早く下りて温泉にでも入ってのんびりといこう。
四日市で地のもんでも食うて美味いビールでも呑もう。
そんな気持ちでそれはもう一杯だった。

そもそも、今夜は七夕コンパがあるのだから、あまりのんびりしているわけにもいかなかったのだった。


それでも時間だけはタップリとあるのだから、ユックリと時間をかけて朝食を摂り、ノンビリと後片付けを済ませて出発しようと思っていた。
ところがそんなあまちゃんな目論見は、ある一匹の虫の襲来によって打ち砕かれたのだった。
大きさはスズメバチ程度。しかし色は黒い。その物体は、それこそスズメバチほどのスピードで、それほどにスズメバチの羽音を立てながら顔を目掛けて飛びかかってきた。
すんでのところでかわし、ツェルトの中から虫除けスプレーを取りだした。それを自分の顔に吹きかけるように、襲いかかる謎の虫に吹きかけるようにと、辺り一面にスプレーを振り撒きながら広場へと転がり出た。
追いすがる虫よりの逃亡は、さらに数分間の時間を経る。ようやく諦めたそれは、いつしかどこかしらにその姿を消していたのだった。

それが居なくなったとはいえ、いつまた再び思い出したかのようにその襲撃をしたろか、なんて気持ちになるかも分からないだけに、そこに長居は無用だった。
慌しくオスプレーのホーネットに荷物を詰め込み、何物かに見咎められぬ様、即座に撤収したのだった。

伊勢谷の路は木漏れ日も気持ち良く、爽やかな風が吹き渡っていた。所どころ崩落し崖様になった各所では水が滴り落ち、それは良き水場のように思えたのだが、これは偏に昨夜の豪雨故現れた、ひと時の癒しであろう。
もちろんこれ以後の行動は下るだけなのだらか、水を汲む必要など何もなくて、ひたすらにその路を下りて行った。

朝明の小屋から上って来たのだろうか?単独行のお年寄りと二度挨拶を交わしながらすれ違った。そして間もなく、朝明渓谷の清い流れに出会う。
昨日のやたらと天気がよくて、躰全体から滴り落ちるほどカキまくった汗と、昨夜の稲光に包まれるなか、カイた冷や汗と、ツェルトの生地に触れたところから流れ込んだ湿気を、洗い流すように沢に飛び込む。気温は既に30℃近いというのに、その流れは、凍えるほどに冷たかった。
誰も上ってこないなって確認し、服を脱ぎ、洗濯を始めた。白濁した液体が糸を引く。自分で感じるほど臭くなっていたのだから当然だろう。水に曝し、絞る。そんなことを数十回繰り返し、ようやく澄んだ水となっていた。

街中へ下る儀礼的な儀式を終え、沢に点在する岩の上で甲羅干しをした。見上げれば、天は何処までも高く澄み渡り、青さが目に染みた。足元の流れには魚が舞い、空のきらめきを映していた。
陽を受けた顔が火照る。それを川面を渡る風が冷ましていった。


空を見上げながら思う。足元を洗う澄んだ川の流れと戯れているより、あの澄み渡った空の向こうに拡がる天の河を越えて、織姫を探すべきなのだろう。
だが 今日のコンパもまた、ボクが知っている娘しか来ないだろうという事は知っていた。
だから、少し遅れて行くぐらいが丁度いいと分かっていた。

身体が温もり、服も半ば乾いたことだし、麓を目指し歩き始めた。幾度かの渡渉を繰り返し、幾つかの良さげなテン場を見付けた。そして水場に近い砂地に鹿の足跡を見つけ、少し嫌な気が過った。

キャンプ場からは舗装路が続いていた。道端の自販機でコーラ買い、喉を潤す。
あとは東海自然歩道を通り抜けて駅へ出るだけ。その時、既にボクは、すっかり街中へおりてきた気分になっていたのだった。

東海自然歩道の看板を見つけ、再びトレイルへ踏み入る。
増水した川は、靴を濡らさずに越えることは出来なかったが、構わず渡った。
路を間違え、階段を上り、要らん汗をかいた。
足元を横切るマムシに驚きもした。
だが、そんなことも、これから起きることに比べれば、とても些細な事に過ぎなかった。

「やけに荒れているな」
沢沿いを緩く上るその路の第一印象はそれだった。
それでも沢沿いを流れる湿り気を帯びた風は涼しく、空を覆う木立は心地よい木蔭を用意してくれていた。
剥き出しの脚を濡れた草が撫でるが、藪漕ぎというほどでもない。少しばかり急な坂には階段が刻まれ、薄暗いその辺りには下生えも僅かであった。それなのに脚に触るモノがあった。それは軽く脚をノックし続けていた。
再び嫌な気がしてそちらを見遣ると、一疋の尺取虫の様なモノがボクの脹脛をよじ上っていた。
それは明らかにヒルだった。
反射的に払い除け、両の足を確認した。右足首に三匹、それらは靴下の上から食らいつき、全く離そうとしない。
ボクは走りながら、ハットのツバを広げ、首筋にタオルを巻いた。上から降ってくるヒルに、こっそりと忍び込まれるのだけは嫌だったからだ。
雨蓋には虫除けスプレーが入っているのだが、それを出すことすら考えられなかった。立止っている間にさらに数匹のヒルに集られるのが嫌だったからだ。
立止らずとも、ただ歩いているだけでもヒルは這い上がってきた。いつしかボクは、その沢沿いのトレイルを駆け上がっていた。それはヒルが這い寄る術もない乾いた場所を求めてのことだった。
峠でようやく一息吐いた。道標に鞄をかけ(もちろんこっそりと忍び込んだヒルを持ち帰りたくないが為)、雨蓋を開いた。ディードを嫌がるヒルたちは、次々に丸まっていった。効果はてきめんだった。


峠を越えた安心感からか、その先に続く沢から外れた乾いた路に安堵したからか、再びゆっくりとした足取りとなった。しかし下るにつれ、いつしか沢に近づき、しっとりとした空気に包まれていた。そしてまたやつらに襲われる羽目になった。
靴をよじ登るやつらを払い、枯葉の上で鎌首をもたげるやつを飛び越えて走り下りた。間もなくトレイルも終わる橋の上で一息吐く。いつの間にかまた靴下に喰らいつくやつらがいた。そいつらにディードを浴びせ、ようやくヤマビル達との戦いが終わったのだった。

コースタイム2時間以上の路(マップを落としたので定かではない)を、40分掛からず(休憩時間道迷い含む)に駆け抜け、地図をなくし、幾ばくか流血した。そんな締まらない山行の〆だった。道端の自販機でサイダーを買う。炭酸の喉越しは軽く、汗を吸取った短パンはぐっしょりと重かった。裾を軽く握るだけで大量の汗が滴り落ちた。そして左の裾を握ると、真っ赤な液体がアスファルトを塗らしていった。

「いつの間にやられたんだろう」
そっとパンツの中に手を滑らし、恐る恐る探り始めた。ふたつの膨らみの合間を、ゆるりと指先が滑る。そこに敏感な指先だけが感じ取ることのできる異質なものを見つけた。軀の奥に電気が走り抜けたような衝撃を感じる。押えきれない感覚に声が漏れて、ボクはもうどうしたらいいのか分らなかった。軽い痛みと共に微かな甘い疼きが脳天を貫く。痛みと共に押し寄せる快感を味わいたくて、幾度となくそれを擦りつけていた。そしてボクの下腹部が痛いくらいに怒張しているのに気付いたのだった。
その患部を見つけたのは、大分歩を進めた、近鉄湯の山温泉駅に着いたあとだった。駅前で、宝缶酎ハイを呑み乾した後のことだった。左脚の付け根、臀部との境目辺りに小さな傷があった。ボクの軀に満足してしまったのか、そこにヒルの姿は無かった。血はもう止まっていたのだから、沢伝いを上り始めて間もなく喰いつかれていたのかもしれない。パンツから滴る体液も、薄らと紅を添える程度になっていた。

銭湯を探し求めて、四日市の街を練り歩く。体に張りつくヒルが居やしないか、服のどこかに潜り潜むヒルが居ないか、を確認したかったからなのだが、これがまた全然見つからなかった。ネットで検索しようにもバッテリーなどとっくの昔に切れてしまっていた。
そこで仕方なく、風呂は諦め、呑みにかかる。居酒屋のランチ、餃子屋でビール、ヒル呑みに適した食堂で常連さんと下らない話を繰り返し、電車の中で酎ハイに日本酒を空け、予定通りにコンパには遅れて参戦したのだった。
そしてそこでは思ったとおりに女の子を口説くでもなく、偶々出くわした人妻で妊婦なリサとガッツリと話し込むのだった。

遭遇:無数のヒルたち

呑み:新味覚 → あさひ食堂 → 電車 → チンタ → モンク

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