スキップしてメイン コンテンツに移動

川湯温泉の湯元にしてハイマツとツツジの平原 アトサヌプリ 2018年11月28、29日

OLYMPUS OM-D E-M1 Panasonic Lumix G 14mm F2.5 ASPH


川湯温泉駅に到着した時点で日没をむかえるの分かり、一度はあきらめた硫黄山。それでもやはり上るように決め直したのは釧路へ向う前日のことだった。
それは、いよいよ明日は釧路へ向うと云うその日に、ファイントラックのシュラフを衝動買いしてしまったからだった。

20年以上愛用してきたダウンシュラフはかつての暖かさをすっかり失い、秋の山々でも度々目を覚ますほどの役たたずになりはてていた。
多くの思い出や汗や臭いが染みついたそんなシュラフ。
あるときは雪の沢で濡らしてしまい、両手の指10本まるっと凍傷を負ったり、またあるときは雪山でまた濡らしてしまい、エマージェンシーシートにくるまり寝られぬ一夜をすごしたり、晩秋の谷川で雨に打たれ、濡れたシュラフで身体が冷える度に温泉に入りに行ったり、そんな思い出がいっぱい詰まったシュラフだから、次に買う時は濡らしても大丈夫なポリゴンネストと決めていたのだから、衝動買いとはいえ、いつかは買わなければならないものではあったのだ。
それを買ってしまったからには使いたくなるのが人情ってヤツだ。
ちょうど夜は気温が氷点下4℃くらいになる硫黄山周辺は、ポリゴンネストオレンジのT limit(-2℃)にピッタリだったのだから、試してみたくなるのは当然の心境だっだ。

「ヒグマ出没注意」におびえながらも、もう冬眠しているだろう、と、自分を励ましながらヘッデンの明かりを頼りにすすむ。
ハイマツ帯はやがて隈笹にかわり、路をさえぎる倒木が増えてきた。
散策路は踏み跡がくぼみ、両わきが土手のように盛り上がっているから、月が未だ出ていない闇夜であっても迷いようがない。あとは山頂を目指す分岐を見落とさないだけだ。

土手を踏みわける跡を見つけた。反対側も踏み荒らされている。
ここだろうか。事前に調べたルートはまだ先のはずだ。だけれども、崖も岩場も沢もない溶岩ドーム状の低山。どこから登ろううが上へすすむ限り山頂に着くはずだ、と、その先に続く踏み跡をたどった。

引き返そうと思ったのは傾斜が急になり、踏み跡を見失なったときだった。
簡単なハイキングコースだと思っていたから、機内持ち込みサイズに納めようと思っていたから、食糧や酒やマットがわりのエアキャップやアルミ蒸着シートなどの釧路で買い求めた品々をスーパーのビニール袋に詰めたまま持ち歩いていた。
それが藪こぎの際に裂け、持ち手の片方はちぎれていた。
だから、もう少しラクそうな、藪こぎをしなくてもよさそうな、つまりあらかじめ調べていたルートをたどろうと、もときた散策路へと引き返しはじめる。
上りではあれほどしっかりとついていた跡が下りではまったく見分けがつかなかった。たぶんこっちから来ただろうと進むも、いくら歩こうとも散策路は見つからない。

奥駆道の悪夢が蘇る。
リングワンダリングと云う言葉を思い出す。
もはや山頂の方角すら見失なっていた。
GPSはおろかシルバすら持ってきていないうかつな自分を悔む。万が一遭難したとしても携帯すらないのだから助けも求められない。
幸い、ツェルトにシュラフ、3食分の食糧に酒も500mlある。月が出れば山の位置くらい掴めるだろう。今日の月の出は21時過ぎ。月齢20.5夜。十分な明るさだ。月待にビバークして体力を温存すべきか悩む。さほど広い山域ではないのだから、まっすぐ進めさえすればどこかには着くはず。先ほどの踏み跡がルートでないならヒグマがつけたものかもしれない。早くここから立去るべきだ。結局、そんな結論に落ち着いた。

まず山頂を目指す。ロストした時の基本。斜面に差し掛かったら直登。藪やナメんなよ、結局、そこだった。藪こぎは好きなのだ。

山頂と思う方へ歩き出した。極力まっすぐ進む。それだけに注意を払っていた。ほぼ平らな茂みをひたすらに進んだ。するとあっけなく散策路に出会ったのだ。

それじゃあ、この路をさらにたどってちゃんとしたルートから上りますか、と、気を取り直した。

隈笹をかき分けて進む。倒木を乗り越え、二本並んだ倒木に出会った。
それはさっき越えた倒木だった。迷い彷徨ううちにもときた方角へ引き返していたのだ。
もう心が折れた。二本の倒木を乗り越える元気などみじんも残ってやしなかった。

ピークハントに来たのではない。シュラフの耐寒テストに来たのだ。
寝るだけならマクワンチサップに上る必要もない。つつじヶ原にベンチやテーブルがあった。そこでいいではないか。雲ひとつない夜空を見上げ、そう思った。

ツェルトは張らずにカバーだけ被せたシュラフに潜り込む。天気予報は明日も晴れだと告げていた。
凍りそうなほどキンキンに冷えた十勝ワインに北海道の地酒をかさねる。満天の星空に流星がひとつ走った。これだけの星空ならPENTAXを持ってくるべきだった。OLYMPUSやLeicaではロクにピントも合わせられない。それでも少しでもこの夜空をなにかに留め置きたくて、ピントもロクに合わせずに幾度かシャッターを切った。

シュラフは暖かく、新品のありがたさを実感する。
それでも夜半に目を覚ます。
天頂に差しかかった月明りが眩しかったのもあるが、なにより顔が痛かった。シュラフに守られない部位に容赦なく霜が降りそそいでいた。シュラフに潜って顔を両手でこする。痛みが少しやわらぐ。ウェットティッシュで拭くと真っ黒に汚れていた。この痛みは寒さだけではなく、火山灰も関係していたかもしれなかった。


OLYMPUS OM-D E-M1 Panasonic Lumix G 14mm F2.5 ASPH


OLYMPUS OM-D E-M1 Panasonic Lumix G 14mm F2.5 ASPH


LEICA X1


LEICA X1


LEICA X1


OLYMPUS OM-D E-M1 Panasonic Lumix G 14mm F2.5 ASPH


OLYMPUS OM-D E-M1 Panasonic Lumix G 14mm F2.5 ASPH


OLYMPUS OM-D E-M1 Panasonic Lumix G 14mm F2.5 ASPH


LEICA X1


日程:2018/11/28-29(一泊二日)
ルート:青葉トンネル遊歩道入口1555 - 硫黄山レストハウス1603 - アトサヌプリ1606 - つつじヶ原自然探勝路入口1627 - 原生つつじヶ原の径分岐1645 - 道迷い - 原生つつじヶ原の径分岐1741 - つつじヶ原自然探勝路 - ビバーク - 硫黄山レストハウス0522 - 青葉トンネル遊歩道入口0540
コースタイム: 13h.45min (宿泊、休憩時間を含む)
アトサヌプリ(硫黄山):512m
マクワンチサップ:574.1m

地形図:川湯

距離:?km
累積標高:?m
天候:晴れ
気温:?℃
湿度:?%
目的:耐寒テスト
単独行

コメント

このブログの人気の投稿

南北ドントリッジ下見

日程:2014/10/08(日帰り) ルート:長峰霊園 - 摩耶東谷 - 山寺尾根 - 掬星台 - 桜谷道 - 徳川道 - 北ドントリッジ - 分水嶺越林道 - 布引道 - 新神戸駅 コースタイム:04h 04min(休憩時間を含む) 距離:13.179km 累積標高:1,054m 天候:晴れ 気温:? 湿度:? 目的:例会山行下見 単独行 例会山行のリーダに指名されたからにはヤラざるを得ない。もちろんやること自体は、ヤブサカデハナイ。 「山羊戸渡」を要望されていたのだが、なんかみんなに過大評価している感、満載なルートなだけに気持ちがどうにもこうにも盛上らない。 って云うか、かつてそんな多大なる期待を受けて連れて行ったのに、その数多過ぎる所期を満たすことなんてとても出来やしなくて、ガッカリルートに認定されたことからも気持ちが萎えてしまう。 結局、余り足を踏み入れないコースを案内しますよ、なんて言葉を濁す。とどのつまり「山羊戸渡」までのアプローチの長さ故にダレタ気持ちを、その先から続くひたすらシンドイだけのアルバイトに過ぎない行程を満足させられるだけの力量を持ち合わせていないってコトだけのことだ。 で、選んだのは、摩耶東谷から南北ドントリッジへと続くルート。 ボクは通常、摩耶東谷を辿る時は、日本三大廃墟として名高い「マヤカン」へと詰めるのだが、一応、立入禁止となっている個人所有の敷地へと不法侵入すべく皆を連れて行くわけにも行かず、かと云って摩耶東谷を通しても、最終的にシンドイだけの藪漕ぎになるので、少しはマシだろうと山寺尾根へ抜けるルートを選択した。 通常、ボクひとりで上るのなら、摩耶東谷を谷通しで行くのだが、同行者が居るとなるとそうも行かない。摩耶東谷より入渓し、堰堤を捲いたところで山寺尾根との分岐へと戻った。そこで堰堤工事を知る。この路へは立入禁止だと知った。 山寺尾根をそのまま辿り、途中の広場から摩耶東谷へ下りる路を調べた。だがそこも、人を連れて行くにはどうかなって、路だった。 だからボクは、谷通しで良いかなって思った。 谷を歩く内は涼しくて良かった。だが、一度沢を外れ尾根を伝うと、その急勾配ゆえに、晩秋とは云え、まだまだ激しく照りつける日差しゆえに、段々と消耗していった。 今日はとても暑い日で、リュックの重

紀ノ川水系下多古川 本谷遡行 一日目 2020年6月6日

六月も初めだというのに全国各地で真夏日をたたき出す猛暑が続くなか、これはもう沢だな、と沢装備を整え出社する。 沢足袋のフェルトを張替えていなかったなと、石井スポーツで草鞋を買って大峰を目指した。 「関西起点 沢登りルート100」が見当たらないのでネットで適当に遡行図を探すが途中までのものしか見つからない。 初心者向けの容易な沢で登山道も沢筋に付いているみたいなことが書かれているから、オンサイトで大丈夫だろうとろくに情報も集めずに旅だった。 これがまたえらい苦労する羽目になろうなどとは何も知らずに。 沢沿いに今なお残る集落を抜け川をまたぐと一軒の建物が目についた。 確か川を渡ってすぐぐらいのところが取付きだったよな、うろ覚えの遡行図を思いだし、簡易浄水場の横から続く踏み跡をなぞって入渓した。 朽ち果てた取水口を越えるとすぐ、滝に出会った。 沢足袋に履き替え、草鞋を結ぶ。妙に鼻緒が短くて履きにくい。 念のためi-padで遡行図を確認する。6mの斜瀑(F1)とある。確かに6mくらいの高さだが、斜瀑というかふつうに滝だ。 直登できなくはないが、シャワークライムを強いられる。 思ったよりも気温が低いし日差しもない。入渓したばかりで体も温まっていないのに滝に打たれるのはいややなと、右岸の草付きを捲く。これが見た目以上に悪い。岩の上にうっすらと土がのり、頼りなげに草が生えている程度だった。 手掛かりになる樹根はおろか、幼木ですらほとんど手の届く範囲にはない。 それでも登れそうなポイントを探し、左へ左へとトラバースしていく。しかし、楽に登れそうなところは見つからず、心が折れた。 しかたがない。直登しようと緩んだ草鞋を結びなおした。 途端に鼻緒が切れた。ブチッとした手触りと共に、ボクの張りつめた気持ちも切れた瞬間だった。 取水口より手前まで戻り、今度は左岸を高捲く。獣道やもしれぬかすかな踏み跡をみつけ、たどる。 F1を越えて再び沢へ下りたいのだが、どれだけ探しても下りられそうなルートがない。捨て縄でも張れば別だが、戻ってこないので回収もできない。 下りられないのなら上を目指すしかない。どこかに登山道がついているかもしれないし、いっそ

武庫川水系西ノ谷遡行

武庫川水系西ノ谷遡行 武庫川水系太多田川赤子谷左俣 日程:2014/07/02-03(一泊二日) ルート:親水広場1613 - 入渓1628 - 霞滝1635 - 桜滝1648 - 満月滝1716 - 尾根1741 - 大峰山1834 コースタイム:2h 21min(休憩時間を含む) 距離:? 累積標高:? 天候:晴れ 気温:? 湿度:? 目的:沢登り 単独行 表六甲の沢の汚さに嫌気が差し、武庫川渓谷なら少しはマシだろうと西の谷を目指した。ついでに裏六甲の沢を幾つか絡めるつもりだ。 家の用事を何かしら片付けていると、なんだかんだでいい時間になってしまっていた。 宝塚でJR(宝塚-武田尾¥200)に乗換え、武田尾の駅より廃線跡を辿る。 放置され風化するに任されたトンネルを二つ抜け、親水広場から櫻の園へと入る。その入口を流れる沢が西の谷だ。 先ずは「もみじの道」を辿り、すぐに出会す堰堤を越えてから入渓する。そこですぐさま身支度を整える。沢足袋に履き替え、ラッシュガードを着る。電子機器はジップロックなり、サラスパの袋なり、LOKSAKなりで包み、ORのドライコンプサミットサックなり、EXPEDなりに突っ込んで完全防水にした。 最初の釜に入り腰まで浸かった。身体に籠った熱が嘘みたいに引いていく。暑さに負けてビールや酎ハイ片手に歩いた街中の暑さが、幻だったかの様に思えてくる。 幾つかの小滝を越え、10m程度の滝(霞滝)に出会った。越えられそうな気もするが、メットをも忘れてしまった単独行なので自重する。そして、定石っぽい右岸のルンゼから上った。そこに掛けられた残置ロープを頼るまでもないが、あったらあったでそれは楽だった。 再び緩い斜瀑を幾つか越えていく。そして幾段かの滝で構成された大滝と出会った。下から見上げても、どこが滝口か定かではない。それほどの連なりだった。 しかしその一段目に取付くには茶色く泡立った釜に浸かるか、無理矢理ヘツッて滝に寄るかしかなかった。もちろんその濁りに浸かりたくも無かったし、スタンスやホールドは随所に見られはするが、万が一落ちてしまった時のことを考えるとヘツるのも二の足を踏む。 結局、またまた右岸より草付きを登り、一段目を越えた辺りでトラバースし、上へと続く残置ロープを跨いで、滝へと戻った。