PENTAX K-1 SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM なんかそれはまったくもう、奇跡としか云いようのない出来事だった。 ボクの立場から云えば、8月8日の台風がもたらした豪雨により、白神岳登山口の駅に降り立つことが出来ないでいた。秋田県、青森県をかすめるように抜けた颱風は、その地には雨こそもたらしはしなかったのだが、そこへと至る電車を止めていた。迂回路を選んでもその日中にはたどり着けそうにもなかった。だから、8月13日に行くことにするしかなかったのだ。 そこで早朝に電車に乗り、十二湖より登ることを考えた。「リゾートしらかみ」でアクセスすることに、あらためて計画し直した。 ところが指定席が買えなかった。満席だったのだ。それは全席指定の「リゾートしらかみ」には乗れないことを意味していた。だから秋田で5時間近く時間を潰して指定席のないワンマン電車に乗ったのだった。 ナミゾーの立場から聞けば、十二湖より大崩れまで登り、引き返して車中泊の翌朝に白神岳に登る計画だったと云う。でもどうせ登ったのだからと、引き返して登り返すなど馬鹿馬鹿しいと、十二湖より縦走し、白神岳登山口へと下りてきたのだった。 誰も来ないだろうと思っていた休憩所に、カップルが入ってきた。そのときボクは、眼鏡を外して本をただ読んでいるところだった。山の、沢登りの小説を、時間潰しに、暇潰しに、読んでいたところだった。 眼鏡を外していたのは、最近の眼の衰えから細かい文字が読めないからだ。老眼だからだ。 そして眼鏡なしにそちらに目をやろうとも、近眼のボクにはその姿を認められない。 休憩所の中を確かめるように気配は移動してた。眼鏡なしには確認できない彼らは徘徊していた。誰もいないだろうと思っていた休憩所に、何者かがいた不安を消し去るように会話は続けられていた。その言葉の端々に何か聞き覚えのある響きを感じていた。いや、まさか、と思う。いくらお互いよく山に登るといったって、東北の北の果ての山で、偶然出逢うなどないだろう、たまたま似た声質の人なのだろうと思っていた。だが、そこまで思っては、そこまで考えてしまっていては、確認しないわけにはいかない。 眼鏡をかけてその姿を確認した。その顔は、かつて幾度となく共に山を登った女性とそっくりだった。 「みっちゃんだ」そっくりさん